20230722
さっき⚪︎⚪︎さんが部屋の内見に出かけていった
ドアが閉まった。
▲▲▲君(⚪︎⚪︎さんの父親)が出ていった時のことを覚えていると昔言っていた。
その背中を⚪︎⚪︎さんは見送っていたのだろうか。
残される方は辛いものだよ。
最初からわかっていたんだよ、私には。
いつからだろう、もうずっとずっと前から。
出会った頃からだろうか、いつかこうなることを
私は記憶の奥底で知っていた。
その時間の中ではいつも
この人だけはいつも変わらず私のそばにいてくれることが
疑いもなく そこにあるのに
いつも 心の奥底にある どこか遠い未来の記憶の中で
わかっていた
そして その記憶が蘇るたびに「まさかね」と打ち消していた
私はわかっていて、⚪︎⚪︎さんと付き合ったんだ。
わかっていたから、瞬間 瞬間の思い出を大切にしてきた
そのことが やがて私を苦しめることを考えなかったのだろうか
考えたとしても考えなかったとしても
私にはそうすることしかできないことを知っているのだから仕方ない
いろんなことを一緒にして、一緒に考えて、30年くらいになるだろうか
一緒に住んでからは20年くらいかな
数えたくないから よくわからない
日常の中でほんの少し動くたびに、
どこにも どんなものにも その記憶はくっついていて
いちいち落ちてくるから
面倒でしかたない
何一つしたくなくなる
これから⚪︎⚪︎さんが部屋を決め、
実際に荷物を整理し
引っ越し屋がどこか遠い場所へ運び出して
その人が最後にこの玄関から出ていき
今日と同じように ドアが静かに閉まる
これまでもドアは何度も何度も 同じように静かに閉まったけれど
やがて時間になると 鍵を開ける音が聞こえ ドアは外から引っ張られて
ここにいていい たった一人の人は
その温もりと共に家の中に帰ってきた