何もない私

 

 

何もない私

                            紀城 有希

 

心の谷に落ちたものを

抱え上げようとして、

私はいくつの上薬をかけてきたことだろう

この空から私に降るものは

塵も埃もみんな

どこにも溜まりはしない

ただ私を通過するだけだというのに

 

空と空のようなものの間のほんの小さなスペースに

ぽつんと現れてしまった少しだけ色の違う空気か

うすい雲みたいなもの

そこが たぶん私で

 

少なくとも ここにいる間は

上方と私と下方との

透けるような青や吸い込まれるような深い青や陽だまりのような白や

その移りゆく光を楽しめる

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