無題
紀城 有希
片方の足がもう一方の倍ほども長く
タコの足のようにだらりとぶら下がっている。
生まれたてのバランスの悪い娘を見て、多少のショックはあったが、
夫から受け取り、抱いて、
娘のまだ不完全な手足をなめたり、不要な部分を食べたりして整えてやるはずだった。
ふと考えごとをしてぼりぼりと食べていたら、
気が付くと娘は、すでに目を中心として顔の周辺がわずかに残っているだけだった。
取り返しのつかない事態に胸をえぐられるような思いで、ただ呆然と立ち尽くした。
娘は、それでもまだ生きようとしており、
抱きかかえた私の鎖骨から胸にかかる少しやわらかい部分の肉に吸いつき、血をすすろうとしている。
私はその残った顔を胸に押しあて、血が吸いやすいようにしてやった。